民家の店・宿 民家の店・宿

民家の店・宿

情報誌『民家』の「民家の店、民家の宿」シリーズからの抜粋です。

  • 神奈川/燕カフェ

     鎌倉駅から徒歩11分。小町大路から東勝寺橋方向へ曲がると目の前に見える。小町大路は鎌倉時代の主道路で、明治以降は保養地として開発、当時の建築物が今でも何軒か残っている。うち1軒が石田雄さんの経営する「燕カフェ」だ。2階建ての建物は昭和9年築の住宅で、現オーナーの母亡きあと2015年に店子募集され、イタリアンのコック歴10年超で古物商許可証も持つ石田さんとマッチングした。

    こだわりの空間と食を楽しむ
     赤い屋根の棟門と主屋の簓ささらこ子張りの外壁、燻し瓦が目印だ。店は1階のみ。石田さん曰く、「とにかく空間づくりには苦労した」というだけあって素晴らしい。店内への重々しい引き戸を開ければ板に洗面台がついた珍品和箪笥、両替商と薬屋の鬼看板が並ぶ。
     内装は竿縁天井、漆喰壁、聚楽壁。古色を愛する石田さんは聚楽壁の傷も味としてそのままだ。大黒柱はなんと太さ八寸のケヤキ材。そして厳選した食器(寛政年間~)や調度品があふれ、庭の紫陽花で作ったドライフラワーが彩を添える。入ってすぐの8畳間には座卓2つ、文机1つが配置され、押入前には全国の市で探してきた岐阜、京都、山形の蔵戸が並ぶ。縁側には2つのテーブル席。梅雨時には紫陽花を窓越しに楽しめる。6畳の板の間にはカウンターとミシン台を改造したテーブル席がある。このカウンターが、建物自体に手を加えた唯一の場所だ。そして奥にはテーブル席の個室がある。
     基本は年中無休で、食材が尽きるとお休みになることも。体にいいものをコンセプトに、和洋にこだわらず、野菜中心の料理と、漢方に詳しい石田さんご母堂のオリジナルブレンド茶がお勧めです。(神奈川県・正会員 M.H.)

    住所 神奈川県鎌倉市小町3丁目2-27
    HP https://tsubamecafe-kamakura.shopinfo.jp
    メニュー 薬膳カレー1500 円、薬膳おでん1500 円、杏仁豆腐900 円
    薬美巡茶(リラックスフレッシュティー 700 円、気巡り美人茶700 円、欲張り美人茶 700 円)

  • 滋賀/Cafe & Gallery & Guesthouse 「WABI 〇彌」

    近代和風住宅を
    住居兼飲食店・民泊に再生

     江戸から京の都に上るひとつ手前、東海道五十三次の最後の宿場町、大津。三井寺に近く、敦賀に向かう北国海道(西近江路)から路地を入ったところに佇む「○彌」は、オーナーの熱意で、2017年9月、カフェ、フリースペース、ゲストハウスに蘇りました。
     オーナーの清水香瑠さんは服飾デザイナーとして活躍、リタイア後、子ども時代を過ごした思い出の家を親族から借り、終の住み処として改修。ちょっとした飲食が提供できて、部屋のひとつを民泊にしたいと計画しました。
     屋根が複雑に組み合わさったこの建物は、大正15年に上棟した近代和風住宅ですが、もともとは西隣りの家と一体の長屋住宅の大津町家でした。当時、東はすぐ琵琶湖で素晴らしい景色が見えていたと思われます。

    大津の隠れ家でゆったり過ごす
     飲食は予約制でいろんなご相談にのっていただけますが、こだわりは「虫養い」。虫養いとは、腹の虫を一時的にしのぐ食べ物という意味で、できるだけ地産地消と旬の物を使った月替わりのランチメニューです。珈琲好きの私としては食後の珈琲もお薦め。清水さんのセンスで飾られた調度品を眺めながら、ゆったりとした時を過ごせます。フリースペースでは、ときおり作品展やお稽古事、ワークショップなどをされています。長期滞在にもお薦めで、まさしく大津の隠居部屋のようなゲストハウスです。
     2020 年に「清水家住宅主屋」という名称で国の登録有形文化財となりました。(滋賀県・正会員 M.S.)

    住所 滋賀県大津市観音寺11番1号
    電話 090-6552-4572(清水)
    料金 1泊朝食付17,000円~(定員4名)
    3名以上は1名につき1,000円追加、夕食3,000円~(ご希望により可)
    アクセス 京阪「三井寺駅」より徒歩4分、JR大津駅より徒歩23分またはタクシーで5分
    E-mail k.shimizu0078@gmail.com
    HP https://www.instagram.com/wabi_wabi_k/

  • 群馬/鰻を主としたお食事処「柏屋四郎右衛門」

     上州(現在の群馬県)は江戸時代より昭和まで、養蚕・製糸・織物の絹産業で栄えました。江戸時代には、藤岡の中心部(現在の 群馬藤岡駅周辺)では頻繁に絹市が開かれて賑わいをみせました。上州藤岡諏訪神社には、今でも江戸時代の三井越後屋との関係を示す手水鉢や常夜灯が遺されています。また明治10年に旧多野郡新町で官営の新町紡績所が操業を開始、明治20年に三越の所有となり、同年には高山社蚕業学校も本校を藤岡の中心部へと移し、藤岡の町は絹産業関係の取り引きで活気を帯び潤いました。
     ここに紹介する食事処「柏屋四郎右衛門」を有する「柏屋旅館」は、300年の昔、絹宿の1つでした。 上州(現在の群馬県)は江戸時代より昭和まで、養蚕・製糸・織物の絹産業で栄えました。江戸時代には、藤岡の中心部(現在の群馬藤岡駅周辺)では頻繁に絹市が開かれて賑わいをみせました。上州藤岡諏訪神社には、今でも江戸時代の三井越後屋との関係を示す手水鉢や常夜灯が遺されています。また明治10年に旧多野 郡新町で官営の新町紡績所が操業を開始、明治20年に三越の所有となり、同年には高山社蚕業学校も本校を藤岡の中心部へと移し、藤岡の町は絹産業関係の取り引きで活気を帯び潤いました。
     ここに紹介する食事処「柏屋四郎右衛門」を有する「柏屋旅館」は、300年の昔、絹宿の1つでした。
     近年、この老舗宿のオーナーは、敷地内に遺る明治12年と明治25年築の2つの蔵の再生を降旗建築設計事務所に相談し、事務所から独立して群馬で仕事をする建築事務所吉左右が設計監理を担当したそうです。そして2003年~2004年の曳家など難工事の末、食事処として、蘇りました。
     2つの蔵を出入口や受付のサービス空間がつないでいます。どちらも1階が椅子席の空間で、静かな環境で鰻料理をいただくことができます。2階は畳敷きの和室と板の間があり、多用途に使用される空間です。  伺った7月は、新型コロナの影響もあり、旅館としての営業はしていませんでしたが、蔵を再生したお食事処「柏屋四郎右衛門」で、お財布にもやさしい半鰻重(鰻半匹)をいただきました。
     窓辺の机には、JMRAで出版した『よみがえる蔵』で紹介されたページや、近隣の藤岡瓦職人の五十嵐清さんを紹介するページが広げられていました。眼福、口福のランチタイムでした。(東京都・正会員 S.S)

    住所 群馬県藤岡市藤岡55
    電話 0274-22-0006
    ランチ 11:00~14:00、17:00~21:00
    (夜は予約のみ、日曜夜の部はお休み)
    メニュー 鰻重・肝吸い付き4000円、半鰻重・肝吸い付き2500円
    会食コース(予約要)5000円~等

  • 山梨/イタリアンレストラン「Kaikoma kitchen」

    情報誌『民家』123号
      

    東京生まれの安田貞和さんと由美さんのご夫婦が、甲斐駒ケ岳の美しさに惹かれ山梨県北杜市で移住生活を送るなか、2020年1月にオープンさせたのがこの「Kaikomakitchen」です。
     お店は、季節感を大切にした地元の旬食材を使った地産地消型レストランです。
     小さな集落にポツンとできた素敵な一軒家は、私が勤める山翠舎で設計・施工を担当させていただきました。
     木造平屋建て約15坪の新築建物の内外装に古木が装飾材として使われています。新しい中に、どこか懐かしい暖かさを感じる、地域の人びとに長く愛される空間デザインを目指しました。エントランスに入ると古木を配したホールのような空間が出迎えます。また、お客様との距離感やライブ感を大切にしたい想いから、オープンキッチンにしています
    。  客席壁面にあるパネルは、店名の由来でもある甲斐駒ヶ岳をモチーフにしたデザイン。打ち合わせで「甲斐駒ケ岳を2人で眺めながら、いつかレストランを開いたらKaikomakitchenにしようねと話していたんです」という言葉から着想を得てデザイン・製作しました。2人の想いと、古木独特の温かさが詰まった、ここにしかない古木のアートパネルとなりました。
     東京で5年で時代遅れといわれるソフトエンジニアの世界で暮らす中、〝自然豊かな田舎で暮らしたい〟と2人の夢を抱え辿り着いたのがこの場所です。「この地で古木のように何年経っても役に立つ存在に時間がかかっても自分はなりたい」と、お店の将来と生き方を含めて抱負をくれました。
     人が心地良いと思える空間。そのは、オーナーの人柄と不可分になっているように感じました。北杜市へ行く際には、みなさんもぜひ、訪ねてみてください。 (長野県・正会員 K.T)

    住所 山梨県北杜市白州町下教来石7-1
    電話 0551-45-6825
    ランチ 11:30~14:00(L.O.13:30)
    部屋ディナー 土曜日のみ、前日15:00までに予約
    定休日 第1と第3火曜、毎週水曜と木曜
    HP https://www.insutagram.com/kaikomakitchen/

    情報誌『民家』123号
  • 山梨/宿「ワイン民宿 鈴木園」

    情報誌『民家』123号

    旧甲州街道勝沼宿は江戸前期に開設された宿場町で、甲州盆地の江戸からの入口にあたり、往時は本陣1軒、脇本陣2軒、問屋場1軒、旅籠23軒があり栄えました。残念ながら現在は街道沿いにその面影は少なく、葡萄畑と販売所が目立ちます。
     当宿は周囲の町並みとはひと味違う風情の落ち着いた佇まいで、街道沿いに黒板塀が設けられた内の木立の奥にひっそりと建っています。料亭かと感じさせる雰囲気があり、かといって構えず地味な造りです。駐車場もさりげなく配置れ、目立たなさは徹底しています。
     塀の中ほどに切られた入口の奥正面がフロント棟の主屋でラウンジ兼レストランが設けら南斜面をうまく生かした地下に小さな資料展示室が設けられています。
     南奥に蔵を改装した2階建てに4室、カツラの大木とカリンの樹のある中庭を挟んで街道側に平屋建ての3室の計7室のこぢんまりした宿です。蔵の前に設けられた葡萄棚の下のデッキテラスから眺める葡萄畑の広がる景色も心地良いです。
     建物は、大正から昭和にかけて法学者として、また戦後衆議院議長や国務大臣として活躍した樋貝詮三氏の生家を改装し、宿泊棟としています。宿は1983年に創業し、来年で40年とのこと。内部は19世紀建築の古民家にアンティーク家具をしつらえた、和洋折衷様式で落ちつきます。
     B&Bのホテル形式で朝食が美味しいと評判で、スタッフの落ち着いた温かい応対も気持ちよく、リピーターが多いのもうなずけます。(東京都・正会員 M.A)

    住所 山梨県甲州市勝沼町勝沼3284
    電話 0553-39-8522
    宿泊 1泊朝食付 大人5,000円~、小人4,500円~(税抜)
    部屋 7室 駐車場 9台(無料)
    駐車場 9台(無料)

    情報誌『民家』123号