

情報誌『民家』の「民家の店、民家の宿」シリーズからの抜粋です。
丁寧に手入れされたお庭のアプローチを抜けて、入口の引き戸を開けると、外観からはなかなか想像できなかった、広々とした空間が広がります。戦後すぐ、昭和20年代に建てられ、店主の栗原さんの祖父母がお住まいだったという古民家。栗原さんが学生の時に、取り壊す、という話も出たものの「壊さないで、とっておいて」とお願いしたそうです。
古民家改修は未経験ながらも、地元の大工さんの協力のもと、2年かけて家を手入れし2007年にお店をオープンされました。壁は漆喰や珪藻土を塗り、床は杉板に蜜蝋ワックス、柿渋やベンガラで、なるべく自然素材を使って仕上げたそうです。古民家の2階では、かつて、秦野の名産であったタバコの葉を乾燥させていました。
入口を入って右手が、今は蕎麦を打つ部屋となっており、ガラス越しに蕎麦打ちをされているライブ感が楽しめます。お店の奥には囲炉裏もあり、煙で燻された梁や柱が温かな味わいを醸し出しています。
お蕎麦は石臼を使ってそばの実を挽き、秦野の自然の恵みを活かし、その時々の季節ならではのメニューを提供されています。ちょうどお伺いした際はセリやコゴミなど、春の山菜を使ったお蕎麦の季節でしたが、夏は素揚げしたナスの皮をむき、出汁に浸して翡翠色を出した「翡翠そば」なども登場予定です。
家も生き物で、自分の身体の延長であると考える栗原さん。朝、お店に入る際には「おはようございます」と挨拶しているそう。
小さい頃の思い出をお尋ねすると、祖父と一緒に庭の八重桜の花を摘んだり、祖父母や親戚のかたが縁側でお茶を飲んだりしていたエピソードをお話しくださいました。
栗原さんが大切に愛情を注いできた古民家で、お庭を眺めながらゆったりとお蕎麦を味わってみてはいかがでしょうか。
(東京都・友の会会員 Y.M.)
住所 | 神奈川県秦野市渋沢2098 |
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電話 | 0463-88-1070 |
営業 | 11:30~15:00(L.O.) |
定休日 | 月・火(祝日は営業、振替休日あり) |
メニュー | 手挽きざる(1,100円)、麻ひしお(1,350円) 翡翠そば(1,400円) |
HP | https://sobakurihara.studio.site/ |
熊本市の食べログ蕎麦ランキング第1位には、「手打百藝 中の森」が常に鎮座し、ミシュラン☆でもある。蕎麦の実を挽くとき、1番挽きが更さら科しなで2番挽きが挽きぐるみ、3番が黒い田舎である。皮が外側なので、逆のような気もするが、蕎麦の実はひし形で、まず2つに割れて、中央部から粉状になるので、更科が先だそうだ。
中の森のそばはすべて、つなぎを入れないそば粉だけで打つ十割蕎麦。その日の湿度によって打ち方を決めているそうだ。
蕎麦のおいしさの秘訣は、挽きたて、打ち立て、ゆでたてという。そうめんは1年寝かせ、うどんは前の晩、スパゲティは完全に乾燥させるのが良いという。同じ麺の扱いが、どうしてこんなに違うのだろうか不
思議だ。
中の森さんおすすめが「発芽そば切り」である。一昼夜水につけて発芽させた蕎麦の実を使うため、糖化
素の働きによって増す甘みや、餅のような触感が特徴だ。ただし、麺が伸びるのも早いので、食べる方も技
術がいる。味は絶品。価格が高い理由が分かる。
この建物は2007 年に古い住宅を蕎麦屋として再生するため、私の事務所で設計を担当した。床板は100年以上経過した松材に久米蔵塗装。再生から年月を経て、黒光りして、壁の漆喰とのコントラストで、
深みがさらに増している。
水前寺駅の斜め前にあるので、一度行ってみたらよい。他では見られない、いろいろな秘密が分かるかも
しれない。
(熊本県・正会員 T.H.)
住所 | 熊本市中央区水前寺3丁目6-2 |
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電話 | 096-387-6340 |
営業 | 11:00~15:00 |
定休日 | 月曜日 |
メニュー | 田舎、挽きぐるみ、更科(各950円) 発芽そば(1,150円)、天ぷらそば(1,500円) |
HP | https://nakanomorisoba.jimdofree.com/ |
鎌倉駅から徒歩11分。小町大路から東勝寺橋方向へ曲がると目の前に見える。小町大路は鎌倉時代の主道路で、明治以降は保養地として開発、当時の建築物が今でも何軒か残っている。うち1軒が石田雄さんの経営する「燕カフェ」だ。2階建ての建物は昭和9年築の住宅で、現オーナーの母亡きあと2015年に店子募集され、イタリアンのコック歴10年超で古物商許可証も持つ石田さんとマッチングした。
こだわりの空間と食を楽しむ
赤い屋根の棟門と主屋の簓ささらこ子張りの外壁、燻し瓦が目印だ。店は1階のみ。石田さん曰く、「とにかく空間づくりには苦労した」というだけあって素晴らしい。店内への重々しい引き戸を開ければ板に洗面台がついた珍品和箪笥、両替商と薬屋の鬼看板が並ぶ。
内装は竿縁天井、漆喰壁、聚楽壁。古色を愛する石田さんは聚楽壁の傷も味としてそのままだ。大黒柱はなんと太さ八寸のケヤキ材。そして厳選した食器(寛政年間~)や調度品があふれ、庭の紫陽花で作ったドライフラワーが彩を添える。入ってすぐの8畳間には座卓2つ、文机1つが配置され、押入前には全国の市で探してきた岐阜、京都、山形の蔵戸が並ぶ。縁側には2つのテーブル席。梅雨時には紫陽花を窓越しに楽しめる。6畳の板の間にはカウンターとミシン台を改造したテーブル席がある。このカウンターが、建物自体に手を加えた唯一の場所だ。そして奥にはテーブル席の個室がある。
基本は年中無休で、食材が尽きるとお休みになることも。体にいいものをコンセプトに、和洋にこだわらず、野菜中心の料理と、漢方に詳しい石田さんご母堂のオリジナルブレンド茶がお勧めです。(神奈川県・正会員 M.H.)
住所 | 神奈川県鎌倉市小町3丁目2-27 |
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HP | https://tsubamecafe-kamakura.shopinfo.jp |
メニュー | 薬膳カレー1500 円、薬膳おでん1500 円、杏仁豆腐900 円 薬美巡茶(リラックスフレッシュティー 700 円、気巡り美人茶700 円、欲張り美人茶 700 円) |
近代和風住宅を
住居兼飲食店・民泊に再生
江戸から京の都に上るひとつ手前、東海道五十三次の最後の宿場町、大津。三井寺に近く、敦賀に向かう北国海道(西近江路)から路地を入ったところに佇む「○彌」は、オーナーの熱意で、2017年9月、カフェ、フリースペース、ゲストハウスに蘇りました。
オーナーの清水香瑠さんは服飾デザイナーとして活躍、リタイア後、子ども時代を過ごした思い出の家を親族から借り、終の住み処として改修。ちょっとした飲食が提供できて、部屋のひとつを民泊にしたいと計画しました。
屋根が複雑に組み合わさったこの建物は、大正15年に上棟した近代和風住宅ですが、もともとは西隣りの家と一体の長屋住宅の大津町家でした。当時、東はすぐ琵琶湖で素晴らしい景色が見えていたと思われます。
大津の隠れ家でゆったり過ごす
飲食は予約制でいろんなご相談にのっていただけますが、こだわりは「虫養い」。虫養いとは、腹の虫を一時的にしのぐ食べ物という意味で、できるだけ地産地消と旬の物を使った月替わりのランチメニューです。珈琲好きの私としては食後の珈琲もお薦め。清水さんのセンスで飾られた調度品を眺めながら、ゆったりとした時を過ごせます。フリースペースでは、ときおり作品展やお稽古事、ワークショップなどをされています。長期滞在にもお薦めで、まさしく大津の隠居部屋のようなゲストハウスです。
2020 年に「清水家住宅主屋」という名称で国の登録有形文化財となりました。(滋賀県・正会員 M.S.)
住所 | 滋賀県大津市観音寺11番1号 |
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電話 | 090-6552-4572(清水) |
料金 | 1泊朝食付17,000円~(定員4名) 3名以上は1名につき1,000円追加、夕食3,000円~(ご希望により可) |
アクセス | 京阪「三井寺駅」より徒歩4分、JR大津駅より徒歩23分またはタクシーで5分 |
k.shimizu0078@gmail.com | |
HP | https://www.instagram.com/wabi_wabi_k/ |
上州(現在の群馬県)は江戸時代より昭和まで、養蚕・製糸・織物の絹産業で栄えました。江戸時代には、藤岡の中心部(現在の
群馬藤岡駅周辺)では頻繁に絹市が開かれて賑わいをみせました。上州藤岡諏訪神社には、今でも江戸時代の三井越後屋との関係を示す手水鉢や常夜灯が遺されています。また明治10年に旧多野郡新町で官営の新町紡績所が操業を開始、明治20年に三越の所有となり、同年には高山社蚕業学校も本校を藤岡の中心部へと移し、藤岡の町は絹産業関係の取り引きで活気を帯び潤いました。
ここに紹介する食事処「柏屋四郎右衛門」を有する「柏屋旅館」は、300年の昔、絹宿の1つでした。 上州(現在の群馬県)は江戸時代より昭和まで、養蚕・製糸・織物の絹産業で栄えました。江戸時代には、藤岡の中心部(現在の群馬藤岡駅周辺)では頻繁に絹市が開かれて賑わいをみせました。上州藤岡諏訪神社には、今でも江戸時代の三井越後屋との関係を示す手水鉢や常夜灯が遺されています。また明治10年に旧多野
郡新町で官営の新町紡績所が操業を開始、明治20年に三越の所有となり、同年には高山社蚕業学校も本校を藤岡の中心部へと移し、藤岡の町は絹産業関係の取り引きで活気を帯び潤いました。
ここに紹介する食事処「柏屋四郎右衛門」を有する「柏屋旅館」は、300年の昔、絹宿の1つでした。
近年、この老舗宿のオーナーは、敷地内に遺る明治12年と明治25年築の2つの蔵の再生を降旗建築設計事務所に相談し、事務所から独立して群馬で仕事をする建築事務所吉左右が設計監理を担当したそうです。そして2003年~2004年の曳家など難工事の末、食事処として、蘇りました。
2つの蔵を出入口や受付のサービス空間がつないでいます。どちらも1階が椅子席の空間で、静かな環境で鰻料理をいただくことができます。2階は畳敷きの和室と板の間があり、多用途に使用される空間です。
伺った7月は、新型コロナの影響もあり、旅館としての営業はしていませんでしたが、蔵を再生したお食事処「柏屋四郎右衛門」で、お財布にもやさしい半鰻重(鰻半匹)をいただきました。
窓辺の机には、JMRAで出版した『よみがえる蔵』で紹介されたページや、近隣の藤岡瓦職人の五十嵐清さんを紹介するページが広げられていました。眼福、口福のランチタイムでした。(東京都・正会員 S.S)
住所 | 群馬県藤岡市藤岡55 |
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電話 | 0274-22-0006 |
ランチ | 11:00~14:00、17:00~21:00 (夜は予約のみ、日曜夜の部はお休み) |
メニュー | 鰻重・肝吸い付き4000円、半鰻重・肝吸い付き2500円 会食コース(予約要)5000円~等 |