民家再生事例 民家再生事例

民家再生事例

大島家住宅「臥水正庵」 ,

伏見の最も繁華な場所にあり、周辺はビル化が進み町家が減少。この地域の町家は比較的間口が広くおおらかで、当家もその特徴を持つ(間口4.5間)。当主は長く京都を離れていたが、退職後に親族の思いも込めて復元改修を行うことに。改修に先立ち景観重要建造物の指定を受け、建てられた当初の状態に戻すことを第一に考え再生。現在は当主や地域の交流の場として、緩やかに活用されている。

関東でのサラリーマン生活卒業。放置状態の京都伏見の築後140余年経つ実家をどうしようか。第二の人生の計画よりも差し迫った問題でルンルン気分になれなかった。妻は既に他界しており、子供たちも独立。結局、就職後40数年暮らした土地に一人取り残された独居老人になってしまった。さてどうするか。これまでの生活を完全にリセットすることを決意、京都に戻ろう!実家の近くに新たに住居を構えることにした。

京都での新たな生活を始めたものの、40数年離れていたことは、全く未知の街に引っ越したも同然、これでは京都に戻った意味はない。京都で生まれ、育った記憶を蘇らせるため、カメラを片手に、毎日毎日目的もなく市中や寺社仏閣などを徘徊、それで3年程度経った。また小学校の同期の連中との再会も果たし、伏見の歴史も色々教えてくれた。一方、朽ち果てる寸前の我が実家を目の当たりにし、どうしようかともんもんと悩む日々であった。と、ある日の徘徊途中、京町家再生相談会なる催しが行われているのを発見。相談は「事前要予約」との看板を無視、ぶっつけで飛び込んだ。事情を説明、今後相談にのっていただけることになった。調査で、当該物件が再生の価値はないとの判定が下れば取壊し売却を覚悟していた。調査結果の判定は再生の価値あり!「再生の実現は当主の決断と強い信念だ」と説教された。以上が京町家再生への決断の経緯である。

以降、京都市都市計画局関係部署との具体的は打合せ、詳細な提案書の作成への設計事務所の選定、添付古資料の収集等不慣れな作業が待ち構えており、何度か挫折しかけた。そこで、市からの紹介でWIN建築設計事務所所長、一級建築設計士で古民家再生のエキスパートでもある栗山裕子先生との出会いがあった。そして先生のご助言もあり、施工担当として、再生事業に積極的に取り組んでおられるアラキ工務店を選定した。解体から修復工事途中、大工さん達には大変迷惑だったと思うが、その都度現場で大工さんと会話し、町家再生の工事内容、職人さんの匠の技等を教えてもらうことが楽しかった。長年培われてきた木造建築の奥の深さを再認識した。

それから約8ヶ月、見事に再生した。早々に、その奥座敷で母、妻の法事を執り行うことが出来た。そして、それ以来10余年が経つがその間、レンタルスペース京町家として、各種小規模の会合、外国人含む食事会や茶話会、小中高の同期会、謡の会等にご活用いただいている。

再生後、楽しみばかりではない。問題点も多々発生している。ゲリラ豪雨による越屋根からの雨水吹き込み宅内びしょぬれ、思わぬ所から白蟻発生!!京格子の補修、ベンガラの再塗装、木部垢洗い、その他細々した補修、修理、さらに毎年の庭木の剪定等々、維持のための保守費用が予想以上に掛かっている。とは言え、余命続く限り保存、維持に努力していくつもりである。将来にわたっての再利用計画については後世に委ねるつもりである。
(建築主より・中略 ※おもしろかったので、ほぼ原文のまま掲載させていただきました)

再生後 内観1
再生後 内観2
奨励賞No. 200307
完成年 2011年11月
所在地 京都府京都市
設計 WIN建築設計事務所
施工 アラキ工務店
構造規模 木造ツシ2階建
敷地面積 301.00m2
1階面積 119.23m2
2階面積 57.92m2
延床面積 177.15m2
主な外部仕上げ 屋根:日本瓦葺
壁:真壁漆喰塗、ベンガラ塗
建具:二本切子糸屋格子、他
主な内部仕上げ 天井:大和天井ベンガラ塗、他
壁:漆喰塗、聚楽塗、杉板古色塗他
床:新畳、地桧板、松縁甲板、他
建具:地桧硝子桟戸、地桧硝子框戸、他